【リスク図書書評1】 安全。でも安心できない・・・・ -信頼をめぐる心理学-

安全と安心の違いを非常にわかりやすくまとめた良著。安全に対して、こんなにお金もマンパワーも使ってるのにどうして安心が得られないのかと嘆く方にお勧め。
著者はまずはじめに安全と安心を次のように定義する。
安全:危険性の低い現在の状態
安心:大丈夫と感じている人間の心理の状態
その上で
「なぜ、安全がそのまま安心につながらないのか」と説明し、「安全と安心の関係はどうなっているのか」という問いへの答えを探ることが本書のテーマ
としている。本書の序盤ではどうして安全≠安心なのかを、赤福事件や白い恋人事件といった具体例を挙げて説明している。理由はひとつではなく、たとえば
・現在の日本が生活は安全になっているにもかかわらず、高い不安を抱えている点
・メディアの報道が誤報であったのにもかかわらず、事後の安心感回復が非常に困難になった点
などを考えてみればわかる。

それでは安全のみを闇雲に追求することが安心感醸成のための唯一の方法でないことがわかった今、どのようにすれば安心感を与えることができるのか。本書では次の3つがあげられている。
1.問題解決のための高い能力があると認められること
2.問題に対して、誠実・高い動機付けをもつと認められること
3.問題に対して、高い関心をもつ人に対しては、主要な価値が類似しているという感じを与えること
以上は状況によって異なり、その統一的な了解は得られていない。本書では具体例を多く挙げることによってここの状況に対応した理解を深めることができるようになっている。

目次
はじめに
第1章 「安全」だけでは足りない!
安全と安心の違い / 安全の被害はないのに…… / 事件についての学生との会話 / 極悪非道でなくても / 人はパターンで認識する / 見抜けなくても仕方ない / 万全の監視は困難 / 完全な安心も無理 / リスク管理は安心を与えるか / 安全をとるか、安心をとるか
第2章 信頼の心理学
分業社会における安全 / 外部依存は止められない / 分業社会における安心 / 二種類の情報処理 / 「遺伝子組み換え」の評価 / 自分で判断はムリ? / 信頼に「値する」と信頼できるように「みえる」 / 信頼の非対称性原理 / 信頼が悪化しにくい状態
第3章 信頼のマネジメント
信頼できる人の条件 / 「正直さ」?「思いやり」?「一貫性」? / 信頼は二要因で決まる / 誠実さの「演出」 / ブラックジャックは繁盛するか? / 「外部の査察」が有効な場合
第4章 価値観と信頼感
信頼理論の新たな展開 / 主要価値類似性モデル / 信頼するのは「第三者」か「仲間」か / 花粉症の人、そうでない人 / 結果を重視する人、プロセスを重視する人 / 赤土流出をめぐる信頼調査 / 信頼の文脈 / 「関心の低い人」が重要な理由
第5章 感情というシステム
信頼だけではない / 一般人のあり方 / 望ましくないことの過大評価 / さまざまな犯罪の発生頻度推定 / 不安感情という要因 / 感情ヒューリスティック / 感情が力を持つとき / 感情のシステムと理性のシステム / 感情システムの合理性 / 「恐ろしさ」と「未知性」 / 理性も受け入れられる
終章 「使える」リスク心理学へ
安全と安心の関係再考 / 他者への信頼 / 信頼の要素 / 自らをさらすという方法 / 価値類似性の認知 / 何が重要か、は状況が決める / 他人事の場合、当事者の場合 / 人びとの感情と向き合うこと
おわりに
引用文献