【リスク書評3】リスク意思決定論 谷口武俊 著

本書は著者が大阪大学の「環境リスク管理のための人材養成」プログラムにおいて、2年間おこなった「技術リスク意思決定論」の講義をもとにまとめたもの。
高度科学技術社会におけるリスク問題を、様々な主体(個人、集団、社会、グローバル社会、将来の世代)を対象として、整理している。
少ないページ数の割に、非常に情報密度が濃く、技術社会において現在認知されているリスクとその対処方法を整理するには、格好の本であるといえる。
特に、第二章の個人レベルの意思決定と判断バイアスは、他書で頻繁にあげられているヒューリスティックスだけでなく、さまざまな角度から整理されている。この多角的な記述は各章で見られ、本書の内容をより濃いものにしているが、若干羅列的な部分もある。
第5章の技術リスクの類型化が面白かった。

最後はリスクマネージメントについて説明した、次の文章で締めくくろう。
リスクマネジメントの本質はForward thinking(前向き思考)であり、responsible thinking(責任ある思考)であり、Balanced thinking(バランスのとれた思考)である

序言
環境リスクと意思決定
第1講 高度技術社会におけるリスク問題
1 リスクとは何か
2 高度科学技術社会に顕在化しつつあるリスク
3 環境・技術リスク問題の様相
4 リスク問題顕在化の主要因
5 巨大技術システムの事故を考える
6 リスク問題のアプローチ
第2講 個人レベルの意思決定と判断バイアス
1 不確実で複雑な状況での意思決定
2 意思決定のアプローチ
3 ヒューリスティックによるバイアス
4 確率判断におけるバイアス
5 帰納的推論による判断バイアス
6 フレーミングによるバイアスとプロスペクト理論
7 非合理的なコミットメントのエスカレーション
8 動機付けされたバイアス
9 交渉で陥るバイアス
10意思決定における公正性・論理性
第3講 集団・組織レベルでの意思決定
1 集団レベルでの意思決定
2 組織レベルでの意思決定
3 集団・組織レベルで優れた意思決定をするために
第4講 社会レベルでのリスク意思決定
1 HSEリスク問題対処におけるパラダイムシフト
2 環境・技術リスクマネジメントの各組みと原則
3 環境・技術リスクマネジメントのプロセス
4 リスクトレードオフ
5 社会的なリスク受容レベルとは
第5講 リスク社会への対応を考える
1 リスクガバナンスとは
2 予防原則を考える
3 グローバルな環境・技術リスクの類型化とリスク対応基本戦略
4 Riskworld 2020:リスク社会の将来像